Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
エミリとハンネスの数メートル程先で、チラチラと後ろを気にしながら歩いているのはリヴァイ。待ち合わせ場所を離れてからずっとピクシスやエルヴィンらと並んで店に向かっているが、後ろの方が気になって仕方が無かった。
「珍しいこともあるもんじゃ」
突然、ピクシスに声を掛けられたリヴァイは、エミリから視線を外す。
「何の話だ」
「お主が一人の女に夢中になっているとはのう」
「…………別に夢中になってるわけじゃねぇ」
ピクシスの言葉を否定するリヴァイだが、答えるまでの数秒の間をピクシスは逃さなかった。
さっきからずっと、エミリを気にしてばかりのリヴァイ。ピクシスが話を振ってもどこか上の空だった。
それほどまでに気になる存在らしいが、エミリとは会ったばかりで、しかも彼女はまだ子供だ。
正直に言って、エミリの何に惹かれたのかは分からない。
けれど、リヴァイが彼女に対して抱いている感情の正体は、彼を見ていれば一目瞭然だ。けれど、本人はどうやらまだそれに気づいていないらしい。
「さっきから後ろばかり見ておる。エミリのことが気になるんじゃろう?」
「…………」
「リヴァイ、いい加減気づいたらどうだ?」
「あ?」
口を挟んでくるエルヴィンの言葉に、リヴァイは訳が分からないといった表情だ。
「気づく? 何をだ」
「ふむ……お主も自分の恋路には疎いようじゃのう」
「…………は?」
ピクシスから発せられた”恋路”という単語に、リヴァイの思考が停止した。
「……何言ってんだ、あんた……」
「ははは……! こりゃあ面白いのう」
「おい」
戸惑うリヴァイを放って、まるで余興を楽しんでいるかのようなピクシスに、苛立ちが募っていく。
ギロリと睨みつけるも、ピクシスは口元に笑を乗せたまま余裕の表情を見せる。
「全く気づいとらんようじゃな……リヴァイ、お前がエミリを気にする理由はなんじゃ?」
そう問われたリヴァイは、戸惑いながらもこれまでの出来事を思い返してみた。