Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「…………すまねぇな」
「いきなり何よ……」
昔と今とを比べていたハンネスが、ポツリと小さな声で謝る。
急に謝罪されて訳の分からないエミリは、少し困惑の表情だ。
「お前らの親、救えなくて…………」
「その話はもういいよ。仕方なかったんだから」
ハンネスに限らず人類の殆どが初めて巨人を目にしたのだ。
突然の悲劇。平和だった街を地獄に変えられる中、あの時ハンネスも精一杯だったのだろう。
「……それに、私だって戦える力を持っていなかった。それだけだよ」
この世は弱肉強食だ。
人間が土地を支配し、家畜を殺しそれを食料とするのと同じ。
他の生物には無い知性という能力を使って、人間は強者という立場でいられる。
ただ、その人間よりも巨人の方が強いだけ。それだけなのだ。
それが、この世界の理。
弱者は強者にひれ伏す。
だけど、全てがその道理で成り立っているわけではない。
どの生き物にも、強者に抗う術を持っている。
「抗うしかないんだよ。私達は……自由を取り戻すために」
人間の大きな武器は知性と言葉。
大昔、それが生み出されたお陰で人間はどんどん進化を遂げた。
その結果、人の手によって立体機動装置が創り出され、いま、こうして巨人に立ち向かえることができる。
それは、巨人にとって弱者である人類が抗い続けた大きな戦果だ。
「だから、私も創ってみたいと思ったの。巨人に対抗するための武器を」
「それが、薬だってのか?」
「うん。巨人だって、この世界に存在する生き物でしょ。もしかしたら、薬だって効くかもしれないじゃない」
人を救うだけじゃない、巨人を倒すための薬を開発することはできないだろうかと考えた。
勿論、巨人には謎だらけな部分が多すぎる。特に巨人の絶対的な治癒能力が厄介だ。
体を切断してもまた生えてくる。薬だって、体内で効果を打ち消す可能性だってある。
それでも、試してみたいと思った。
その為には研究して知るしかない。つまり、巨人を捕らえて実験しなければならない。
だから、ハンジの巨人捕獲にエミリは賛成していた。
「まあ、その前に試験に受からないとね」
「そうだな」
合格しなければ、そのやりたいことすらできないのだから。
そうやって夢へ突き進んで行くエミリを、ハンネスは眩しそうに目を細めて見ていた。