Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「で? お前の方は最近どうなんだ?」
フィデリオの話からエミリの近況について尋ねる。彼女が自分の無力さに悩みながらも、必死に努力しているということについては、フィデリオから送られてくる手紙によく書かれていたからハンネスも気になっていた。
「私? 私はね……最近、やりたいことが見つかったの」
「へぇ……何だよ? その、やりたいことってのは」
「ふふん……」
かなりご機嫌だ。どうやら、その”やりたいこと”のお陰で、今の彼女の毎日は充実しているのだろう。
「私ね、いま……薬学の勉強をしているの」
「薬学? お前、まさか……」
「うん。薬剤師の夢を思い出して……また、それを目指してる」
エミリが小さい頃、薬剤師になると何度も言い張っていた姿が脳裏に浮かぶ。
医者である父を尊敬し彼と共に仕事をするために、そして、大切な幼馴染──ファウストの病気を治すために、エミリが夢見ていたなりたい自分。
「一度、諦めてしまったけど……でも、兵士になって、調査兵団に入って、壁外で戦って見つけたの。私にしかできないこと、それは、薬を作ることかなって」
「だから、薬学の勉強を始めたのか?」
「うん。来年に行われる試験に向けてね。薬剤師を名乗るには、資格が必要だから」
生き生きと自分の夢を語るエミリは、とても幸せそうだった。
薬剤師の試験を受けるのだから勉強は難しいはずなのだろうが、それも夢を追い続けるエミリにとってはなんて事ないのかもしれない。
「……立派になったもんだなァ」
あの日、巨人に立ち向かうことができず、エミリ達の母親であるカルラを置いて行った自分が、心底情けなくて笑える。
エミリは母親を目の前で失い、絶望に打ちひしがられ地に膝をついていたが、今は様々な方法で戦う力を身につけている。
子供の成長は早いものだと感嘆の息を漏らす。
赤子の頃から見ていたせいか、ハンネスにもエミリらに対して親心にも似た感情を抱いていた。