Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
店へ向かっている間、エミリはハンネスと並んで歩いていた。話題はエミリが調査兵団に入ってからの出来事だ。
「そうか。フィデリオのやつ、そんなに力をつけてたんだな」
「うん。ミケさんの班に所属してるだけでも凄いのに、更にまた強くなってる。向いてんのかもね、あいつ」
「ま、あいつはどっちかっつーと、頭よりも体を使うことの方が得意だからなァ」
エミリとフィデリオは幼馴染で、兵士を志願する前は毎日エレンやアルミンらを連れて遊んでいた。そのため、ハンネスもフィデリオの幼少期を知る者の一人だ。
フィデリオが調査兵になった今では、手紙のやり取りをしているが、内容は大体くだらない話ばかりだ。
「フィデリオのやつ、俺が訓練や調査の話を振っても上手く誤魔化してくるんだが……あいつ、何かあったのか?」
「何かあったって言うか、多分知られたくないんじゃない? 自分のこと。なんて言えばいいかな……あいつ、チャラチャラしてる割には陰で努力するタイプだからさ」
フィデリオは可愛い女の子に弱い。エミリが呆れる程(エミリ以外の)女の子に優しい。
その上、街で一緒に出かけている時だって可愛い女の子を見つければすぐに声をかけようとするくらい、とにかく可愛い子に弱いのだ。
そんな幼馴染に手を焼かされるエミリだが、それでもフィデリオのことは信頼しているし、尊敬している部分もある。
訓練兵になって知ったことだが、彼は自分の努力を他人に見せつけようとしない。夜遅くに一人で鍛錬する幼馴染の姿を何度も見てきたから知っている。
「あの女癖さえなけりゃ、もっとマシな男になるんでしょうけどね」
「ま、女を取っかえ引っ変えするような男じゃなくて良かったじゃねぇか」
「そもそも、そんな奴だったらとっくの昔に絶交してるわよ」
エミリは不真面目な人間は嫌いだ。それは男女問わず。
初対面で合わないと直感すれば、本当にその人とは合わない。それは大抵、男女関係などの遊び癖が激しいやつだったり、規律を守らないようなやつだったり、平気で弱いものいじめをするようなやつだ。
フィデリオは女遊びが激しいわけではない。ただ、可愛い子に弱いだけ。注意すれば改めようとするやつだし、意外と真面目だ。だから今も関係が続いている。