Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「わっ……!? へ、兵長?」
いきなり腕をグイッと引っ張られ、リヴァイの方へ引き寄せられたエミリは、戸惑いながらリヴァイを見上げる。
「どうか、しました?」
様子がおかしなリヴァイに問いかけるも、エミリを睨みつけたまま反応が無い。
知らない間に何かしてしまったのだろうか。
そんな考えに辿り着いたエミリは、慌てて口を開こうとするも、エミリがそうする前にリヴァイは彼女の腕を掴んだまま歩いて行く。
「あ、あの……兵長?」
急に早足で歩き出したリヴァイに引っ張られながら声をかけるが、返事が無い。
「……兵長、その……腕、痛いです」
「チッ……うるせぇ。グダグダ言ってねぇで行くぞ」
エミリがどこにも行かないように、無意識に彼女の腕を強く掴んでいたようだ。
少しだけ手の力を緩め、歩く速度を落とす。
「兵長、本当にどうしたんですか? 何か変ですよ……?」
遠慮がちに掛けられる言葉にも答えず、リヴァイは無言で歩き続ける。
そんなリヴァイの様子から、何も答える気は無いのだろうと諦めることにした。
さっきとは違って二人を包む空気は何とも重たく気まづいものだった。
リヴァイは不機嫌な表情で、エミリはそんな彼の様子を伺いながら、会話も無く待ち合わせ場所へ向かう。
しかし、流石にそんな状態が続くとエミリも辛くなってきた。
何が気に触ったのか分からないが、リヴァイを不快な気持ちにさせてしまったのならその原因を知って謝りたい。
「……兵長」
控えめな声でリヴァイの背中に話しかける。
「私、何かしましたか? もしそうなら謝りたいです。兵長と……その、喧嘩したままなんて私は嫌です」
喧嘩と呼んでいいものなのかは分からないが、それしか言葉が思いつかない。
リヴァイはようやく歩を止めエミリを振り返る。その顔にはいつもの無表情が乗せられていた。
寂しげに瞳を揺らすエミリの姿に、リヴァイは心を落ち着かせる。
「……悪かった。お前は何もしていない」
まだよく分かっていないが、さっきのはきっと八つ当たりのようなものだったのだろう。
流石に申し訳なく思い優しく頭に手を置いて撫でてやる。
「なら、良かったです」
エミリはふわりと微笑み返してくれた。