Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
立ち止まったエミリの前に広がるのは、植木鉢に植えられた美しい花たち。
看板を見ずともそこが花屋であることがすぐにわかる。
そして、エミリの視線の先にあるものは、いつかリヴァイと二人で見たあの大輪の花。
「……向日葵だ」
ショーウィンドウの窓ガラスに手を置き、その向こうに飾られてある向日葵に釘付けになる。
「そういや、お前の好きな花だったか……」
「はい!」
あの日、二人で訪れた向日葵畑でのことを思い出しながらリヴァイが問えば、エミリは少しだけ頬を染めて嬉しそうに返事をした。
理由は確か……
「ファウスト兄さんが私に似合うって言ってくれた花なので」
ファウスト。エミリの幼馴染であり、彼女の初恋の相手。
彼の存在にモヤモヤと黒い感情がリヴァイの心に広がっていく。
「それに、エーベルも……向日葵の話をしたら『確かに、元気なエミリには向日葵は似合うね』って言ってくれたんです」
その言葉にドロドロとした気分の悪い感情が、更に侵食していく。
エーベルは、エミリがファウストの次に恋をした相手だ。
しかし、彼にはもうシュテフィという心に決めた女性がいる。結婚もしているし、彼のことはエミリの中で踏ん切りがついている。
それなのに、どうしてこんなにも不安になるのだろうか。
(……不安?)
そこで疑問が生じた。
(不安って何だ。俺は……何がそんなに心配なんだ……)
リヴァイは胸を抑える。
しかし、向日葵に夢中なエミリはリヴァイのその動作に気づいていない。
それがまた、余計にリヴァイの黒い感情を大きくしていく。
いま、エミリと一緒にいるのはリヴァイのはず。さっきまで肩を並べて歩きながら話をしていた。
それなのに、いま、エミリが瞳に映しているものはリヴァイではない。
向日葵を通して、想いを寄せていた大切なヒトのことを思い浮かべている。
(エミリ、そんなもん見てねぇで……こっちを向けよ)
訳の分からない苛立ちと向日葵を見たまま動かないエミリに、大きく舌打ちを鳴らしたリヴァイは、窓ガラスに張り付いているエミリの腕を掴んで引っ張った。