Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「ほら、着いたぞ」
ハンネスに連れられやってきた食堂は、調査兵団の食堂と比べてかなり広かった。
そもそも所属する兵士の数が駐屯兵団の方が圧倒的に多いため、食堂も広く作られているのだろう。
「ハンネスさんはもうお昼済んだの?」
「ああ。今から仕事だ」
「そうだったんだ。ごめん、わざわざ案内してもらって」
「構わねぇよ」
また頭に手を置かれる。彼にとっては、大きくなってもエミリはまだまだ子供のようだ。
「ハンネス隊長、今、お時間よろしいでしょうか」
そこへ話しかけてきたのは、眼鏡をかけた銀髪のショートヘアの女性だった。ハンネスを隊長と呼んでいることから、彼の部下であることが伺える。
「ああ、大丈夫だ。悪ぃエミリ、一人で大丈夫か?」
「うん。後で団長と兵長も来るから」
「そうか。じゃあな!」
「ありがと」
ヒラリと手を振って仕事に戻るハンネスに、エミリも手を振り返す。
彼が真面目に仕事をしようとする姿をエミリが見るのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。
「お前は、調査兵団の者か?」
「あ、はい。そうですけど……えっと、エミリ・イェーガーと申します」
ハンネスの部下である銀髪の女性に声をかけられ、一応名乗った方がいいだろうかと敬礼をして名前を言う。
そんなエミリをジッと探るように見つめた後、女性は再び口を開いた。
「…………リコ・ブレツェンスカだ」
「リコさん、ですね。よろしくお願いします」
「……ハンネス隊長とは知り合いなのか? 随分と親しげに話していたが」
「あ、えっと……そう、ですね……」
しまったとエミリは少し焦る。隊長であるハンネスにタメ口で話していたのだから、周りから疑念を抱かれても仕方が無い。
それでも今更ハンネスに対して敬語を使うなんて、正直言って照れくさくてできない。
「ハンネスさんは、私が赤ちゃんの頃からお世話になっていて……私が生まれる前から、両親とも親しかったようです」
「……ということは、君はシガンシナ区出身か?」
「はい」
そこでリコが思い出したのは、ハンネスから聞かされた話だった。
あの日、巨人と戦う勇気がなくてある子供たちの母親を救えなかったという、情けない過去を自嘲気味に語るハンネスが脳裏に浮かんだ。