Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「ねぇ、エミリ」
執務室を後にし、ハンジとモブリットが仕事しているであろう研究室へ戻る最中、二ファが足を止めエミリを引き止めた。
「はい? 何でしょう?」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ?」
二ファの言葉に数回瞬きを繰り返し、エミリは眉を下げて微笑む。
彼女の言葉が何を指しているのかわかったから。
やはり自分は嘘をついたり誤魔化したりするのは苦手なようだ。エルヴィンにも確実に気づかれているだろう。
「……ありがとうございます。でも、大丈夫です」
「エミリの言う『大丈夫』は信じられないんだけどね……」
「えぇ……二ファさん、酷いですよ」
これまで無茶ばかりしていたエミリの行動の数々。正直、不安しかない。
エミリが橋から飛び降り重症を負った事件も記憶に新しい。
「本当に大丈夫ですから!!」
目の前でニコリと微笑む後輩は、どうしても話したくないようだ。
ただ一つ分かることは、その笑顔の裏に隠されいるのはきっと、エミリにとっての大きな”傷”。
「……わかった。そんなに言うなら何も聞かないよ。でも、本当に辛い時は……私でなくてもいいから、必ず誰かを頼ってね。絶対に一人で抱え込まないで」
「はい!」
二ファの言葉に大きく頷くエミリだが、本当に彼女は分かってくれたのだろうか。伝わっただろうか。
例え分かっていたとしても、きっと彼女は無茶をするのだろう。そういう子だから。
「二ファさん、ありがとうございます!」
エミリはもう一度、自分を気にかけてくれる先輩に礼を言う。
二ファが気にかけてくれたことが、とても嬉しかったから。
自分をこうして支えてくれる人がいる。
心配してくれる人がいる。
それだけで、自分の身を案じてくれる人がそばにいると知っているだけで、エミリの心は本当に救われていた。