Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「いや、わざとじゃねぇからな?」
「…………そ、そうよね」
びっくりしたと胸を撫で下ろすペトラだが、まだフィデリオの話は終わっていないし、何故エミリが誰かを傷つけるようなことに陥ってしまったのか、そこが分かっていないため安心している場合ではない。
「ったく、紛らわしい言い方するんじゃねぇ!」
「悪ぃ。ま、とにかく、あいつホントに面倒な性格してるから……誰かがきっかけを作ってやらなきゃいけないんだ」
彼女のそばにいる誰かが手を差し伸べてやらなきゃいけない。
そうしないとエミリはずっと自分を悪者扱いしてしまうから。暴言を投げられても当然だと自分に言い聞かせて、自分を傷つけ続けるから。
「お前らなら、信頼できるから。あいつも、俺も……」
だからフィデリオは、二人には話そうと決めた。
例えエミリ本人の許可がなくても、話す話さないは俺の勝手だともう開き直っている。
それに、エミリも怒ることはないと解っているから。
相手はペトラとオルオ。
エミリとフィデリオ、どちらもその二人のことを一切疑ってなどいない。心の底から信じている。
それを分かっているから、フィデリオは迷うこと無く二人にもあの面倒な幼馴染を任せることができる。
「てなわけで、話の続きはまた今度な」
「は? 今話すんじゃねぇのかよ!!」
「何言ってるのよ。今はまだ訓練中でしょ」
本当は今すぐ聞きたいが訓練の方が大事だ。休憩時間も少し過ぎている。
また今度、というがそれも今日や明日などではないだろう。
その気が無い本人の隣で事情を語るなど、流石のフィデリオも話しづらい。
話すとなるとエミリが外へ出かけている時になるだろう。
気分が晴れずモヤモヤとした気持ちを抱えながら、ペトラとオルオはフィデリオと共に訓練に戻ったのであった。