Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「……あいつさ、あれで結構寂しがり屋なんだよ」
「はぁ?」
意図していなかった返事に、オルオは益々訳がわからないと首を傾げる。
そんなオルオを置き去りにして、フィデリオは続ける。
「あと、割と怖がりだな。あれでオバケとか苦手だったりするからさ〜」
溜息を吐くフィデリオ。そんな彼の話を戸惑いながら聞くオルオとペトラ。
よく分からないが、二人が口を挟まず耳を傾けているのは、きっとその話も必要なのだと感づいているから。
「そのクセに、人一倍強がりで頑固で、変なとこでクソ真面目だから……性格が合わない奴とはよく対立してたな。まあ、なんていうか、人付き合いが苦手なんだよ」
ここまで聞いて何となく話が見えてきた。
訓練兵団の同期と揉め事があった、という予想はまず間違いなく当たっているだろう。
「でも、あいつ頑固だけど自分の悪いとこはちゃんと認められる奴なんだ」
エミリの性格はその時の状況による。
自分の信念を強く持っていたり、自分が正しいと思うことはひたすら突き進んで行く。
だけど、実は正しいと思っていたことが間違いだったり、自身の些細な言動で誰かを傷つけてしまった時は素直に謝ることができる。
「けど、その素直なところがあいつの短所でもあるんだよ」
「どういうこと?」
「自分を責めすぎるんだよ。責任感強いから」
どんなに理不尽なことで責められても、酷い言葉を投げられても、相手に謝り続け自分を責める。その素直な心がエミリを縛り付けていた。
「……ねぇ、ちょっと待って」
今まで話を聞いていたペトラが、違和感を感じてフィデリオに待ったをかける。
「その話の流れだと……まるで、エミリが誰かを傷つけたような感じだけど……」
「ああ。そうだけど?」
「……え?」
フィデリオの返事にペトラとオルオの思考が停止する。
二人から見てエミリは、簡単に誰かを傷つけるような人間じゃないと認識しているからだ。