Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「あ、いた!! エミリ、探したよ!」
そこへ別の声が加わる。それによって、重たかった空気は少しだけ柔らかくなった。
「二ファさん?」
エミリを探していた人物は、エミリがいつも班で世話になっている先輩、二ファだった。
仕事関係の話だろうか、それともハンジのことについてだろうか。
結局エミリは、ペトラの言葉に答えることなく、それじゃ、と三人に声を掛けてから二ファの元へ行ってしまった。
「……エミリ、行っちゃった」
二ファと兵舎の中へ入っていくエミリの後ろ姿を見つめながら、ポツリとペトラが零す。
力になりたいと思うペトラの気持ちは、おそらくエミリには届いていたはずだ。それなのに、エミリは何も応えようとしなかった。
それほど受けた傷は深いのか、それとも……
(もしかして、私達のこと……)
信じていないのか。
考えたくないけれど、どうしても思考がマイナスな方へ傾いてしまう。
「ペトラ、安心しろよ。あいつはちゃんとお前らのこと信頼してる」
ペトラが危惧したことを読み取ったフィデリオが、すぐに彼女の考えを否定する。
「お前らに気を使わせたくないんだろうな。それに、話すことでより鮮明に思い出してしまうから、話すのが怖いんだよ」
そう言って呆れた表情を見せるフィデリオだが、その声はいつもと比べて暗いものだった。
「そもそもよォ……何でお前、さっきのタイミングであんなこと言い出したんだ?」
この重たい空気を作った原因は、『よく面倒事に巻き込まれる』とエミリに対して言ったフィデリオの言葉だ。
それを言えば、エミリの様子が変わることくらいフィデリオは分かっていたはず。こんな気まづい状態になることも。
それを分かった上で話したフィデリオの考えに、オルオは疑問を感じた。