Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「にしてもよ……」
「……何よ」
まだ何か文句でもあるのか。脇腹を押さえながら立ち上がる幼馴染を横目に彼の言葉を待つ。
フィデリオは、ケンカを止めて話し合いをしている後輩達の方を眺めていた。
「お前ってよく面倒事に巻き込まれるよな。当事者にしろ、中立にしろ……」
「え、そうなの?」
フィデリオの言葉にエミリは息を止める。途端にチラリと頭に思い浮かぶのは、自分がまだ訓練兵だった時のこと。
固まったまま何の反応も示さないエミリの顔をペトラとオルオが不思議そうに覗き込む。
「ちょっと、エミリ……? 大丈夫?」
「…………うん、へーき」
そうは言うものの明らかに様子が変だ。
フィデリオが発した”面倒事”。原因はおそらくそこにあるのだろう。そして、彼の視線の先にある後輩達。
それらのことから考えられるのは、友人同士のいさかい。
それを察したペトラとオルオは、何も言えなくなった。四人を包む空気が重たくなる。
気まづくて仕方がないが、このままの状態でいるわけにもいかない。
「……ね、エミリ」
沈黙を破ったのはペトラだった。
「ん?」
「あのね……言って楽になることもあると思う、から……何かあったら話して! いつでも相談に乗るから!」
力になりたいと思った。
過去にできた傷がまだ癒えていないのであれば、その痛みや辛さを一緒に乗り越えたいと。
エミリはふっとペトラから視線を逸らし、遠くを見つめている。そんな彼女の表情は暗く、いつものような生き生きとした様子は見られなかった。
エミリはペトラの言葉に答えるつもりはないのか、ぼんやりと立ち尽くしたまま何も言わない。
再び静寂が四人を覆う。
風がびゅっと吹き抜けるを音を感じながら、ペトラ達はエミリが口を開くのを待っていた。