Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
「おう、お帰り〜」
戻ってきたエミリに、フィデリオがひらりと手を上げ欠伸をしながら声を掛ける。
そんな幼馴染の様子に他人事だからって呑気だなあ、とエミリは溜息を吐いた。
「エミリってばいきなりお説教始めるから、本当にびっくりした」
「お前はどっかのオカンかよ」
親友の初めて見る姿に、ペトラとオルオは驚きと呆れを含んだ顔でエミリを見る。
後輩二人の騒動に駆けつけ、最初は優しく咎めていたエミリだが、全く聞く耳を持たない二人にとうとう『いい加減にしなさい!!』と怒声を上げたのだ。そこからはエミリの長い説教が始まった。
「いや……どうもああいうケンカ見ちゃうとつい……クセというか、なんというか……」
「どんなクセだよ!」
意味不明なクセにオルオが鋭くツッコミを入れる。
説教がクセなど前代未聞である。
「にしても懐かしいな、お前の説教も。昔はいつもエレンとあのガキ大将らに説教してたもんなぁ」
オルオやペトラ達からすれば意外なことでも、フィデリオにとっては逆にそれが当たり前だったため、懐かしいとすら思ってしまう。
それほどエミリの説教は日常化していた。
「……弟ならともかく、ガキ大将にまでお説教ってどうなの」
「いや〜あはは……」
「そいつらがエレンやアルミンにちょっかい出す度に、ビンタぶちかますは蹴り入れるわ……すごかったよな」
当時を思い出しながらやれやれと肩をすくめるフィデリオ。ムッとしたエミリはそんな彼の脇腹に肘打ちを決めてやった。
「いってぇな……っとに、お前って手が出るのが早ぇよな〜」
「はいはい、どうせ私は暴力女ですよ」
フィデリオに言われる前に先に自分で言ってしまう。そうした方がイライラは最小限で済むからだ。