Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第14章 傷跡
団長室でそんなやり取りがあった頃、調査兵団の訓練場では一人の大きな怒鳴り声が響いていた。
「全く、そんな些細なことでどうして殴り合いになるの!?」
その声の主はエミリのもの。
いつものように午後の訓練メニューをこなしていた時、後輩である男子二人が殴り合いの喧嘩を始めたのだ。
騒動を聞きつけ慌ててエミリが仲裁に入り、事情を聞けば何とも馬鹿げた内容であったため、こうしてエミリが説教をしていた。
「別に喧嘩がやりたいならね、気の済むまでやればいいわよ。でも、あんた達の勝手な都合で周りにまで迷惑をかけないの!!」
「「す、すいませんでした……」」
エミリに強い口調で攻め立てられた後輩二人は、地面に正座した状態で頭を下げる。
「それに、話を聞けば私からするとどっちもお互い様よ! だったら、お互い謝って終われば済む話でしょうが!!」
どんな些細なことであれ、相手に嫌な思いをさせてしまった時点で悪いのは自分。そこは素直に謝るのが筋というもの。
そして、相手にそうさせてしまったことに理由があるのなら、謝った後にでも冷静に話し合えば良い。
そうやって自分の気持ちを正直に話して仲直りして、また絆を深めていくことが何より大切なのだ。
だけど、人間はなかなかその単純なことができない。だから争いが起きる。
難しい世界だとエミリは溜息を吐く。
「とにかく、後は自分たちでちゃんと話し合いなさい。いいこと?」
エミリが諭すように声をかけると、二人は声を揃えて返事をした。そんな彼らの声からは反省の色が見える。
二人の返事に納得したエミリは、ハラハラと彼女らの様子を少し遠くから見守っていたペトラ達の元へ戻った。