Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第3章 入団
「もう、何やってんのよ!」
その場にしゃがみ込み口を抑えるオルオにペトラはハンカチを差し出す。
エミリとフィデリオは、失笑する他無かった。こんなにも豪快に、簡単に舌を噛む人間は15、6年生きてきて初めて出会ったからだ。
「いつもこうなのよ。落ち着いて喋らないからそうなるんでしょ。いっそ舌を噛み切って死ねば良かったのに」
「あんあと!?」
「ペトラってオルオには冷たいのね」
それでもハンカチを差し出す辺り、何だかんだ優しいのだろう。オルオの前では、腐れ縁ながらの意地を張っているのかもしれない。
「まぁ、まだペトラの方が可愛いもんだって。エミリなんかすっげぇ暴力女だからな」
「何ですって!? このチャラ男が!」
「誰がチャラ男だ!!」
「エミリも似たようなものじゃない……」
二人のやりとりに、ペトラは苦笑を浮かべる。この二人から自分とオルオとの関係に似たようなものを感じ取った。
そこでふと疑問が浮かぶ。
「ところで、どうしてチャラ男なの?」
ペトラの質問に、エミリは待ってましたと言わんばかりにベラベラと喋り出す。
「そう! 聞いてよペトラ! こいつ結構色んな女の子からモテててさ。私には到底理解できないけどね!
でもね、それをいちいち自慢してくるのよ!! 絶対、こいつ数年後には女たらしになるわ!」
「何言ってんだ! 俺は、お前にもう少し女らしくなれって意味で、俺を好きになってくれた可愛い子達の話をしてやってるだけだろ」
「余計なお世話よ!」
「ああ、なんか今、チャラ男感出てたわ」
「でしょ!」
「えぇ!?」
ペトラの言葉にショックを受けるフィデリオ。まさかペトラを狙っていたのかと思ったエミリは思い切りフィデリオの足を踏みつける。
「ペトラに手を出したらあんたの恥ずかしい話バラすから」
「はあ!? 何だよそれ!」
相変わらず調査兵団に入ってもケンカの絶えない、安定の二人である。
(誰か俺のこと気にかけてくんねぇのかよ……)
そして、オルオは完全に三人から忘れられていた。