Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第13章 勉強
「前々回の壁外調査で君が初めて薬を作った時、君はリヴァイの班員を助けただろう?」
「……はい」
「それだよ。リヴァイがエミリに感謝しているのは」
「あ……」
僅かに声を漏らし、目の前で微笑むハンジを見つめる。
「リヴァイはね、決して表には出したりしないだけで、部下を失った時はいつも自分を責めているんだよ。人類最強だなんて言われているけど……リヴァイにとって、それは呪いみたいなものなのかもしれないね」
「……呪い……」
最強であるが故にのしかかる重圧。それは、リヴァイの心までも縛り付ける。
彼の存在と力は人類の希望そのものだ。周りからの期待は相当なものだろう。
「私は、時々リヴァイが心配になるんだ。いつか、壊れてしまうんじゃないかってね」
「…………」
「あんな不器用な性格だからさ、いつも一人で抱え込んで誰も頼ろうとしないんだ」
調査兵という立場から、特定の女を作ることも無かった。それは、大切な人を失う怖さを知っているからだ。その経験から心の在り処を作ることを拒絶している、少なくともハンジはそう考えていた。
「……だけど、エミリ、君が彼の部下を助けたことによって、リヴァイの心も同時に救われたんだよ。貴女のお陰でね」
「わたし……?」
まだ心に引っかかったものがあるのか、エミリは納得のいっていないような顔をしている。
「エミリ」
「はい」
「貴女にリヴァイのことをお願いしてもいいかな?」
「……え」
ハンジから発せられた突然の要求に、エミリは驚愕する。
「お願いって……」
「エミリなら、きっとリヴァイに寄り添ってあげられると思うんだ」
「あ、あの……ちょっと待って下さい。いきなりそんな事言われても……」
「まあ、まだ少し早かったかな?」
「はい?」
眼鏡をキラリと光らせながら席を立つハンジ。そんな彼女の顔をエミリは戸惑いながら見上げる。
「リヴァイもまだ自分の気持ちに気づいてないみたいだし、エミリもまだ彼に気がある訳じゃ無さそうだしね〜」
「え、何の話ですか!?」
「じゃ、私は研究に戻ろうかな〜」
じゃあね〜と手を振って去って行くハンジ。混乱中のエミリは、小さくなっていくそんな彼女の背中を暫くぼーっと眺めていた。