Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第13章 勉強
そこでエミリは思い出した。何時か読んだ本のことを。
『憎しみは憎しみを生むだけ』
その本に書かれてあった一文だ。
この先巨人と戦い続ける中できっと何度も対面するだろう。それでも、呑み込まれてしまってはいけない。それを断ち切る強さを持たなくてはならない。
そうでなければ人の心というものは簡単に壊れてしまうから。
「エミリ、君ならきっとやれる。勉強、しっかりな」
そして、調査兵団にまた一つ希望を灯してくれ。
モブリットは声に出さず、心の中で彼女に向けて言葉にした。
「はい!」
「また解らない所があったらいつでも言ってくれ」
「ありがとうございます!」
席を立ち書類を持ったモブリットは書庫を出て行く。
一人になった空間で、エミリは深く息を吐いた。
「……良い勉強、させてもらったなぁ……」
薬学とは全く違う話だが、これから兵士として生きるために必要な教訓だった。
そういえばと思い出すのは、エミリが小さい頃に読んだ一つの魔法の物語。
大好きなお話だった。内容は今でも鮮明に覚えている。
そして、一番エミリが印象に残っているもの。それが、主人公の魔法使いの女の子が言っていた『愛は最強の魔法だ』という台詞。
それを読んだ頃の幼い自分には理解できなかったことが、今では少し解ったような気がした。
「『愛は悲しみを越えるステキな魔法なんだよ! そして、その魔法が悲しみを勇気に変えるの!』だったっけ……」
その物語でエミリが一番好きだった主人公の台詞。
正直、意味はよく解らなかったが何故か心に響いた言葉だった。
「愛って難しい……」
というより、薬学の勉強を放ったらかして一体何を考えているんだ。自分にツッコミを入れる。だけど、案外そういった難しいことを考えるのは、嫌いじゃない。
「いつか、私にも解る時が来るかな……」
理解できないのは、きっと自分がまだ子供だからなのだろう。恋だって今のところ失恋続きだ。
「もし、解る時が来たら……その頃には私にもまた、好きな人がいたりするのかな……」
未来の自分は一体どんな女性になっているのだろう。生きているのだろうか……。
いや、そんなことを考えている暇はない。今は自分のやるべき事をやろう。
エミリは再び筆を握った。