Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第13章 勉強
「……分隊長はかなり変わった人だけど、私はそこがあの人の凄い所だと思っている」
人間が巨人に対して抱くものは、憎悪。怒り、悲しみといった"負"の感情が大きい。多くの犠牲が出る度にそれは増大していく。
人類にとって、巨人とは絶望そのもの。
だが、ハンジは逆だった。
巨人を知ろうとするその愛が、知識となり人類を希望へ導いてくれると考えている。ハンジはその希望を信じているのだ。
だから、例えどんなに変人呼ばわりされようが、周りから敬遠されようが、自分の信じるものに従って兵士として生きているのだろう。
少なくとも、モブリットはそう感じていた。
「我々は自由のために戦っている。そして自由を取り戻すためには、どんなに小さな希望だって必要だ。
あの人の元に付いてから、その希望こそ巨人を知り尽くすことなのだと思った」
それが、ハンジから教えられたこと。
一般的な考えとは違う見方をすることで、人類は前に進めるかもしれない。
大きな希望が生まれるかもしれないのだ。
「"憎しみ"ではなく"愛"を持って、ですか……」
「エミリもそうだろう」
「え、私……ですか?」
「エミリは何故、調査兵として生きているんだ?」
「それは……」
初めて壁外調査に出た時は、巨人が憎くて仕方が無かった。
大切な母親が目の前で巨人に食われ、そして家族はバラバラになってしまった。
だけど、今のエミリはあの頃とは違う。
巨人に対する憎しみを持って戦っているのではない。大切な人を守りたいという愛を胸に兵士として生きている。
そして、いま、もう一つの新たな生き方ができた。
「私の……大切な人達を守りたいから。そして、薬剤師になってたくさんの仲間を助けたいから、です」
愛と夢、それが兵士として生きるエミリの原動力。
「同じだよ、分隊長と」
理由は違えど憎しみを糧にするのではなく、愛を抱いて生きている。ハンジとエミリの共通点はそこだった。
「憎しみではなく、そうやって真っ直ぐな心を持てる人って、なかなかいないよ」
「……そうなんですか?」
人はとても脆い生き物だ。
一時の感情に流されてしまえば、そこから後戻りできない者だっている。
いつしかそれが自分の中で固定概念となり、負の感情であれば容易く心を崩壊させるのだ。