Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第13章 勉強
喋っていても仕方が無い。まずはいつものようにランニングから始めた。兵舎の周りを四人で走る中、フィデリオが真っ直ぐと前を向きながら隣で走るエミリに話しかける。
「エミリ、お前また無茶して倒れたりすんなよ?」
「しないわよ!」
「どうだかな。小さい頃、夜遅くまで勉強し続けて、寝不足で一回ぶっ倒れたことあっただろ」
「うっ……」
あれは確か、エミリが薬学の勉強を始めたばかりの頃。気合が入りすぎ、睡眠時間を削ってまで勉強した結果、寝不足で倒れたことがあった。
自分の体調管理もできない人が薬剤師になれるわけないでしょう、とカルラに怒られたこともあった。今となっては良い思い出だ。
「さ、流石にもうしないって……」
「お前、人の言うこと聞かねぇしな〜」
「もうあの頃みたいな小さな子供じゃないんだから! 体調管理くらい、自分でしっかりやってみせるわよ!!」
何より、兵士として生きているいま、生活習慣はきっちりとしていなければならない。寝不足で倒れて訓練に参加できないことの方が問題だ。
「ま、ほどほどにな」
「…………うん」
返事をするまでの間は何だ。突っ込みたくなったフィデリオだが、これ以上言ってもムキになって返してくるため何も言わなかった。
代わりに、少し前で走るペトラの隣に並び小さな声で耳打ちする。
「ペトラ、あいつのこと頼むな。俺からだと意地張って言うこと聞きゃしない」
「うん、任せて」
やれやれと溜息を吐くフィデリオに、ペトラは苦笑を浮かべる。
いつも喧嘩の絶えない二人だが、何だかんだ仲が良い兄妹みたいだ。
チラリと後ろを向けば、エミリは口を尖らせながら足を動かしている。フィデリオの言葉がまだ心に引っかかっているのだろう。素直になれず、いじけている。
「フィデリオ」
「ん?」
「エミリ、試験受かるといいね」
「……おう」
そう微笑むフィデリオが、まるで妹の成長を喜ぶ兄のように見えたのは、ペトラだけの秘密。