Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「……エミリ、何故、薬剤師試験を受けようと思ったんだ?」
その問いに、エミリはゆっくりと頭を上げた。
「私は小さい頃、大好きな人のために薬剤師になることを夢見ていました。けど、途中でその夢を見失ってしまったんです。
でも、何故か医療の勉強は続けていました。その時は、どうしてか解りませんでした。
そして、ようやく、先日の壁外調査でそれが判ったんです。
私は……苦しんでいる人達を助けたいから、そして、その人達のチカラになりたいと思ったから、薬剤師という夢を追いかけていたんです」
グリシャの付き添いで何度も見た、病気や怪我で苦しむ人達。
きっと、その人達を見ている内に、知らぬ間にエミリの中で夢を目指す大きな理由が存在していたのだろう。
だけど、夢を見失っていたエミリはずっとそれに気づくことなく、兵士という道を歩んでいた。
だから今度は、兵士として薬剤師を目指したい。そう思った。
夢を忘れていたことを、少しだけ後悔していたから。
そして何より、壁外で皆が背中を押してくれたから。
「……そうか。理由はよく解った。だが、その道は君が思っている以上に辛く、そしてとても長い道のりとなるだろう。それでも、目指すのか?」
「院長先生にも、同じことを聞かれました。それでも私の意志は変わりません」
ずっと探していた、自分にしか出来ないこと。
やっと、見つけたのだ。
きっと、この先沢山の壁にぶち当たるだろう。嫌になって、投げ出したくなるだろう。
それでも、何度でも前を向ける。薬剤師という夢がある限り、何度だって……───
「……いいだろう」
エミリの熱意に折れたエルヴィンが受験を許可した。その答えに、エミリは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ありがとうございます!! 私、頑張ります!!」
そう言って笑顔を見せるエミリの表情は、自信に満ち溢れていた。
自分に自信が持てず、ずっと卑下してばかりだったあの姿が嘘のようだ。
ハンジから資料を回収し、エルヴィン達に向けて敬礼したエミリは、そのまま団長室を出て行った。