Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「……驚いた。あの子、今度は自分でやるべき事を決めてきたんだね」
エミリが居なくなった執務室で、ハンジが珍しく小さな声で沈黙を破る。
エミリのことは、新兵の頃からずっと見てきた。彼女が己の無力さに嘆いていたことも知っている。
だから、尚更嬉しかった。エミリがやっと、自分の役割を見つけられたことが。
「私が思った通り、あの子は本当に大きなことをしでかしてくれた……」
いつか、兵団で何かやからすだろうとは思っていたが、まさか本当にその通りになるとは。
「まだ試験に受かったわけでもねぇがな」
「だが、エミリが薬学に関する知識や技術の腕を上げてくれれば、兵士の生存率が上がるかもしれない。今回のようにな」
「……ああ、そうかもしれねぇな」
エルヴィンの話に相槌を打ち、リヴァイはエミリが出て行った執務室の扉を見る。
エミリは、リヴァイの部下も助けた。
そして、彼の心も救った。
いつも、部下を失う度に己の無力さを悔いた。
壁外では実力が全ての世界だ。だから、いつも部下には、死んだらそれは自分の責任だと厳しい言葉を掛けている。
でも、心の奥底では守ってやれなかったと何度も自分も責める。いつも、いつも……。
そして、今回もまた同じく自責の念に駆られるはずだった。
それを阻止したのはエミリ。彼女が居なければ、また今回も同様にリヴァイは自分を責め続けていただろう。憎しみや怒りを押し込めながら……───
ドクンとリヴァイの心臓が脈打つ。
初めての感覚に、リヴァイは目を細める。
(何だ……今のは……)
得体の知れない謎の現象。
エミリのことを思うと、心が忙しなく色んな感情を見せる。だけど、不思議と落ち着くそれに悪くないと思った。
その感情の名を彼はまだ知らない。