Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「う〜ん……今日は何か用事でもあったのかな?」
「あまりにもハンジが仕事をしないから、嫌気がさしたんじゃないか?」
「そうかなぁ?」
エルヴィンとハンジの会話に耳を傾けたまま、リヴァイは扉の前で突っ立っていた。
(なら、あいつは何を見てあんな顔をしていた……?)
紙と向き合い、真剣な表情で考え事をしていたエミリの姿が脳裏に浮かぶ。
ハンジの自由奔放さに悩まされていたのかと思っていたが、そうではないらしい。
「リヴァイ? 突っ立ったままでどうしたの?」
なかなか部屋を出ようとしないリヴァイを不思議に思ったハンジの問いかけに、何でもないと返して扉の取っ手を握った。その時、コンコンとノックの音が執務室に響く。
「エルヴィン団長、エミリです」
扉の向こうから、エミリの声が聞こえる。予想外の人物に、リヴァイとハンジは僅かばかり目を見開く。エルヴィンはいつものように涼しい顔で『入れ』と入室の許可を出した。
「失礼しまっ……へ、兵長!?」
扉を開けた途端、目の前に立っていたリヴァイにエミリは目を丸くする。
そんなエミリを見下ろしながら、リヴァイは頭を働かせる。
何故、エミリが団長室に? 下級兵士である彼女がエルヴィンに用事など滅多に無いはずだ。
「エミリ、どうした?」
「あ、はい……!」
リヴァイを見上げポカンとしていたエミリは、エルヴィンの声によって我に返る。
自分の執務室へ帰ろうとしたリヴァイも、何故だかエミリのことがとても気になり、踵を返してソファに腰を下ろす。
そんな彼の行動が珍しくて、ハンジの顔は少しにやけていた。
「あ、あの……もしかして、お取り込み中でしたか?」
団長と兵士長と分隊長が揃っているのだ。エミリがそう勘違いしても可笑しくは無い。
申し訳なさそうに眉を下げる彼女に、エルヴィンが問題無いと微笑んで見せれば、ホッと胸を撫で下ろしエミリは扉を閉めて部屋に足を踏み入れる。