Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「君がそう思うのも、あのイェーガー先生の娘さんだからかね」
「父を……ご存知なんですか?」
イェーガー先生ときたら、グリシャの話しかない。院長から出た名前にエミリは食いつく。
「ああ。何度かお会いしたことがある」
「そうだったんですか!」
世間とは狭いものだ。こんな所に自分の父のことをよく知っている人物がいるなんて。エミリは何だか嬉しくなった。
「君のお父さんは本当に素晴らしい医者だった。私達には無い発想や知識で、多くの患者を救ってきた方だからね。私も尊敬している」
グリシャを語る院長の言葉に、エミリの顔に笑顔が浮かぶ。頬は赤く染まり、目を輝かせていた。
「エミリさん、君が今回、薬を作ったということは……君は父親と同じ道を歩むつもりなのかい?」
「はい!」
急に真剣な表情でエミリに問いかける院長。彼の問に、エミリは迷うこと無くはっきりと答えた。
「兵士はどうするつもりなんだ?」
「続けます。私は……兵士をやりながら、薬剤師を目指したいです!」
それが、エミリの出した答えだった。
エミリが作った薬を飲んで元気になった皆の笑顔と、その後に言われた『ありがとう』の言葉。それでエミリは決意した。
これが自分の戦い方なのだと。
「兵士をやりながら、ね……でも、それは君が考えている以上に、とても辛く困難な道だ。兵士としての訓練を続けながら、少ない時間を使って薬学の勉強をしなければならない。君にその覚悟があるのかい?」
ベテラン医師から突きつけられる現実。エミリは少し、顔を俯ける。そんなエミリを瞳に映し、院長は『だが……』と続けた。
「もしも、それが実現できたら……壁外での兵士の生存率は上がるかもしれないね」
「ッ!」
それは、辛い道の先にある一つの大きな可能性。
(もし、実現できたら……)
エミリは胸ポケットにある、自由の翼の紋章を見る。そして、それに右拳を当てて真っ直ぐ院長を見た。
「……どうする?」
「私は……────」