Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
壁内へ帰還した頃には日が沈んでいた。
今回もいつものように本部へ戻る帰路で民から罵声を浴びた。
しかし、そんなものに耳を傾けている場合ではない。負傷者を早く病院に搬送しなければならないからだ。
病院には、彼らの薬を作ったエミリも共に付き添うこととなった。使用した薬草、薬を投与する前の症状など、医者に詳しく説明できるのはエミリだけだからだ。
病院の院長と負傷者の状態を記しまとめた紙を見ながら話し合う。
「全く……君もとんでもない賭けに出たね」
「申し訳ありません」
紙に目を通しながら、呆れたように溜息を吐く院長に、エミリは頭を下げる。
ここは、この間エミリが入院していた病院だ。壁外調査を終えた調査兵はいつもこの病院に運ばれている。
院長はエルヴィンとも懇意にしており、この病院は調査兵団のことをよく理解している数少ない施設の一つでもあるのだ。
「この間、君を預かった時から無茶をする子だとは思っていたが、まさか薬を作るなんて……」
「本当に……すみませんでした」
四ヶ月前、エルヴィンからエミリを預けられた時、怪我の内容を聞いた院長は目眩がした。何だかんだ、一番印象に残っている患者と言ってもいい程だ。
今回の薬の件だってそう。プロからしてみれば、ド素人が作った薬など危険薬物と同じようなものだ。しかも、それを何十人もの兵士に投与させるなど有り得ない。
「いいかい、エミリさん。壁外で薬を投与してから時間も大分経っているし、取り敢えず今回は何も無かったと判断していいだろう。これも決定的ではないがね。だが、曖昧な知識で薬を作りそれを与えるなど、本来あってはならないことだ」
「……はい」
院長に怒られ、エミリはどんどん縮こまる。耳が痛い話だが、これも薬を与えた側の責任だ。
行動したからには、覚悟と責任を最後まで持たなければならない。
「……まあ、君の気持ちも解らないことはないがね」
「え……」
「目の前に怪我や病気で苦しんでいる人がいたら、助けたいと思うものだよ」
「……院長先生」
さっきまでの怖い顔から、困った様に苦笑浮かべる院長に、エミリは少しだけ身体の力を抜く。