Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
徐々に覚醒していく意識。頭の中がふわふわしている。ゆっくりと目を開けたエミリの視界はまだぼんやりとしていて、何も見えない。
何度か瞬きを繰り返し、ようやく視界がはっきりする。
「…………あ!」
そしてガバッと起き上がった。今はまだ壁外調査中であることを思い出し慌てる。
随分と長い間寝ていたような気がするが、眠ってから何時間経ったのだろうか。
「……あ、これって」
そこで、自分の膝の上に広がるマントが目に入る。だが、これはエミリのものではない。自分のマントは今自分で纏っているから。ならこれは誰のものだろう。
「リヴァイ、兵長の……?」
エミリをここへ連れてきたリヴァイのものとしか考えられない。
マントを手に取るとふわりと紅茶の香りが鼻をかすめる。不思議と落ち着く匂いだった。
エミリはマントを綺麗に畳み、それを抱き締め部屋を出た。
まだ明け方頃だろうか。窓の外は少し暗い。風が強いのか、ガタガタと家が小さく揺れている。
お化けなどの類が苦手なエミリにとって、こういう場所は本当に怖くて仕方が無い。
恐る恐る歩いていると、前からギシギシと音が聞こえる。相変わらず不気味な音だ。誰か来るのだろうか。リヴァイのマントをギュッと抱き締め姿が現れるのを待つ。
そして、突然ゆらりと目の前に現れる影。
「ぎゃあっ!! オバケェェェ!!」
「おい、誰がオバケだ」
「……え」
思わず座り込んだエミリはゆっくりと顔を上げる。そこには、不機嫌な顔のリヴァイがエミリを見下ろしていた。
「な、なんだ……兵長ですか……おどかさないで下さいよ」
「あ? てめぇが勝手に勘違いしただけだろうが」
「だってぇ……」
「それより、もうすぐ出発だ。行くぞ」
「はい。あ、そうだ……兵長、これありがとうございました」
リヴァイはマントを纏っていなかった。やはり、これはリヴァイがエミリに掛けてやったのだろう。
マントを差し出せば、それを受け取りバサリと広げて再び身に纏う。