Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「なぁ、エミリ……」
「…………なに?」
静かなフィデリオの声。
それは、空気となって消えていく。
「もう、薬は無いんだよな……?」
「うん」
「……また、お前に頼んでもいいか?」
「…………」
「みんなの薬、作ってくれ……」
もう、エミリに望みを託すしかなかった。
フィデリオだって解っている。今、自分が頼んだ事が、彼女にどれ程の重圧が掛かっているか……だけど、エミリを頼る以外に選択肢は無い。
「頼む」
フィデリオの口から出された一言。エミリの心は酷く重かった。『いいよ』そのたった一言が、なかなか声に出せない。
それは、何十人もの命が自分の技量に掛かっているという恐怖と不安に襲われているから。
さっきは上手くいったが、次も成功するとは限らない。もし、これが失敗したら……。
(私にはまだ、背負い切れない……)
身体が震える。
失敗して、もし命を奪ってしまったら?
もっと症状が悪化してしまったら?
もう、調査兵団の皆と合わせる顔が無い。そうなってしまったら、ここに居られなくなってしまうかもしれない。
「わたしは……」
ゆっくりと口を開く。
エミリが選んだ答え。それは……────
「エミリ!!」
後ろからエミリを呼ぶ声がした。この声は知っている。恐る恐る振り向けば、そこには眉を寄せたペトラとオルオが立っていた。
「……ペトラ……オルオ」
「エミリ、いま、何て返そうとしたの?」
ペトラの低い声が、エミリの中に響く。
「お前、フィデリオに『ごめん』って言おうとしてただろ!」
的を射たオルオの答えに、エミリは顔を俯かせた。ペトラもきっと、解っていたのだろう。
返す言葉が見つからず、なぜだか二人が怖くてエミリは顔を上げられずにいた。