Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「……笑顔」
「そう。それは、エミリが持っていた知識と技術のお陰だ。そして、貴女が勇気を出してくれたから、今彼らは笑っている」
エミリの肩にそっとハンジの手が置かれる。まるで赤子をあやすような優しい声色で、エミリに言い聞かせる。そうでもしないと、エミリは自分を受け入れない。
「勇気って……」
「薬を作り与えるということは、その人の命を預かるということだ。その為には、大きな覚悟と決意が必要なんだ」
その言葉は、調査兵団の分隊長を務めるハンジだから言えること。
一つの班を持つということは、ただ仕事を全うするということだけではない。その部下の命を預かるということ。それが、"長"という肩書きを持つ者の責任だ。
そして、それは時に大きな重圧となる。
壁外で自分の部下が命を落とした場合は、遺体とその兵士の持ち物を死亡通知書と共に、上官が部下の家族に渡す。それがルールだ。
ハンジが初めてそれをした時、言葉では言い表せないほどの罪悪感が心を襲った。
ただ静かに涙を流す者、罵声を上げる者、何の感情も示さず立ち尽くす者……反応は様々で、数日間心も体も鉛のように重かった時期があった。
あの時ほどではないが、今でもそういうことはある。
だから、解る。
エミリがどれほど葛藤し、悩み下した決断か。
「エミリ、顔を上げて。胸を張っていい。君は間違っていない」
「ハンジさん……」
「エミリのお陰で助けられた人間がいることに、変わりはないんだ。すぐに自分を受け入れろとは言わないよ? でも、少しくらい、自分を認めてあげてもいいんじゃないかな?」
ハンジの言葉に、エミリはもう一度リヴァイ班の兵士達をその目に映した。
(みんな、笑ってる……)
さっきの険しい表情が嘘のように、この残酷な壁外という世界で、彼らは生き生きしていた。
「ハンジさん」
「ん?」
「……ありがとう、ございます」
「うんうん!」
少しだけ、ほんの少しだけだけど、気持ちが楽になった。
もしかしたら、自分が殺してしまう可能性だってあった。
薬を作ると言い張って、もし成功しなかった時のことを考えて、仲間に失望されるのではないかと不安だった。
だから、ハンジの言葉が素直に嬉しかった。