Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
リヴァイがこうして誰かに心を開くのはいつぶりだ。きっと、ファーランとイザベルを失ってから初めてかもしれない。
もし、エミリが薬を完成させることが出来たら。リヴァイの部下を救えることが出来たら。
リヴァイは、心の在り処を見つけられるかもしれない。だから、
『…………いいだろう』
許可を出した。
兵団全体のことを考えると、すぐに出発すべきなのだろう。だが、それでもエルヴィンはリヴァイの望みを通した。
そうする理由は、リヴァイが人類最強だから。
最強故に、彼が背負うものは大きすぎるから。いつか壊れてしまわないように、傍で彼を支える存在が必要なのだ。
人類のために、調査兵団のために、そして何より……彼自身のために。
『但し、薬を投与してから二時間だ。それを過ぎたら、諦めろ』
けれど、それでも兵団全体のことを考えなくてはならない。それが団長を務めるエルヴィンの責任。
二、三人という少ない人間のために、時間を取ることはできない。
『……ああ、わかった』
エルヴィンの返答を聞いたリヴァイは、そのまま班員の元へ戻って行った。
この選択はエルヴィンにとっても賭けだった。それでも、エミリならきっとリヴァイを救ってくれるだろう。根拠など無いが、そう思った。
これは、団長ではなく、エルヴィン・スミスという一人の人間の思い。
そして、賭けたかいはあったようだ。
エルヴィンは静かに微笑む。そんな彼の顔を見たリヴァイは、不思議そうに眉を顰めた。
「何笑ってる」
「いや、何でもないさ……すぐにここを立つ。リヴァイ、お前も準備を」
「……了解だ」
自由の翼を背負うリヴァイのマントが風に靡く。その紋章を眺めながら思う。リヴァイは本当に"自由"なのだろうかと。
リヴァイは初めての壁外調査で大切な仲間を失った。あの時、雨が強く降る中、仲間の遺体の前で立ち尽くし涙を流していた。
そして、悲しみや後悔……幾つもの負の感情を抱え、リヴァイはエルヴィンを殺そうと剣を向けた。
そんな彼にエルヴィンは言った。『後悔はするな』と。しかし、リヴァイの時はまだあの過去で止まっているのかもしれない。だから、心を閉ざしたまま、自分という檻に閉じ篭っている。
そんな彼は、誰よりも"不自由"なのかもしれない。