Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
エミリが見せる温かい笑顔。それは、やはりリヴァイには眩しくて少しだけ目を細める。
「……エルヴィンに報告する。お前らは出立の準備をしておけ」
指示を出し、リヴァイはそのままエルヴィンの所へ歩いて行く。
チラリとエミリを見やると、エルドやグンタにも礼を言われていた。そして、エミリと彼女の周りの人間は、皆笑っていた。
そういえば、エミリと共にいるやつらは皆、いつも笑顔だ。幸せそうに、楽しそうに、友人や仲間と笑い合って過ごしている。
きっと、彼女の人柄がそうさせているのだろう。
そんな温かい空間は、地下街で育ってきたリヴァイには分からない。冷たい世界しか知らない。
けれど、彼女の近くにいるとリヴァイも不思議と心が温まる。
「リヴァイ」
エミリのことを考えていたリヴァイの意識は、エルヴィンによって現実に引き戻される。
「班員の様子はどうだ?」
「痛みが治まってきたようだ。呼吸も安定している」
「そうか。彼女のお陰だな」
「……ああ」
リヴァイはまたエミリをその瞳に映す。
そんな彼を隣で見ていたエルヴィンは、エーベルとシュテフィの結婚式で、シュテフィが言っていた言葉を思い出す。
『あの子は……人を惹き付ける力を持っています』
彼女が言ったように、リヴァイはもうエミリに心を開いている。
そうでなければ、エミリに薬を作る許可など出さないだろう。
『エルヴィン、出発はいつだ?』
『そろそろ拠点を出るつもりだ』
『少し、時間を延ばしてくれ』
『何故だ?』
『俺の部下が重傷を負った。痛みが治まらず、今も苦痛に耐えている』
リヴァイの報告に、エルヴィンは彼の班員が集まっている場所を見る。
そこには、苦しそうに顔を歪ませるリヴァイの部下が横たわっていた。
彼を連れてこのまま調査を続けることは難しいだろう。似たような事は過去に何度もあった。
しかし、そこで違和感を感じた。悲しみに暮れるいつもと違って、他の班員達の表情には皆、"希望"が在った。
『あれは……』
『エミリが、鎮痛剤を作らせてほしいと俺に頭を下げた』
『!』
『俺はあいつを信じる』
その強い瞳を見て感じた。
リヴァイは彼女を信頼しているのだと。薬学に関して、大した業績も無い彼女を。