Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「……なぁ、段々呼吸が落ち着いてきてないか?」
グンタの言葉に、エミリは俯けていた顔を上げる。兵士の顔を見てみると、さっきまでの苦痛な表情が無くなり、まだ少々荒いが呼吸も緩やかになってきている。
「気分はどうだ?」
リヴァイが問う。すると、目を瞑っていた兵士はゆっくりと瞼を持ち上げ口を開いた。
「…………だいぶ、楽になりました……」
「頭はまだ痛むか?」
「……すこし痛むくらいです」
彼の返答に、その場にいた全員が安堵し溜息を吐く。
成功と判断していいだろう。その証拠に、喋ることすら辛かったはずが、今は普通にリヴァイと会話が出来ている。
その姿に、エミリはホッと胸をなで下ろした。そんな彼女の肩に、ポンと手が置かれる。
「やったな、エミリ」
フィデリオだった。そんな彼の表情は嬉しそうだ。フィデリオだけじゃない、ペトラもオルオも笑顔でエミリを見ている。
「……うん。皆もありがとう。道具を準備してくれて」
三人がいなかったら、薬が出来る時間ももっと遅くなっていただろう。
けれど、それよりも一番嬉しかったことは、エミリが作業をしている間も休まず、ずっと傍で見守っていてくれたことだ。だから、安心して作業に集中できたのかもしれない。
「……本当にありがとう」
もう一度、心から礼を言う。そんなエミリの背中にポンと手を置かれる。
ペトラだ。エミリの隣に移動し、『お疲れ様』と労りの言葉を掛けながら、優しく背中を摩ってくれた。
「エミリ」
独特の低い声が、エミリの鼓膜を震わせる。その声に引き寄せられるように、ペトラ達からリヴァイへ向き直る。
真っ直ぐとエミリの目を見るリヴァイ。エミリも同じように、彼の三白眼を見つめる。
「ご苦労だった。お前には……感謝している」
「っ!」
優しい瞳と声。エミリの頭に置かれたリヴァイの手は、とても温かくて、どうしてか分からないけど、今までの疲れが取れていくような感じがした。
「……兵長」
リヴァイの言葉がエミリの心に響く。だけど、礼を言いたいのはエミリの方だった。
「信じて下さり、ありがとうございます」