Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「多分、こいつはさ、一度ハマったら抜け出せねぇんだ」
「抜け出せない?」
「そう。勉強始めて、集中しだしたらこいつは止まらない。ずっと一つのことにのめり込んでんだ」
それと同じように、きっと夢も一度見つけてしまったら抜け出せないのだろう。
エミリは中途半端なことは嫌いだから。まだまだ小さいのに、そんな頃から難しい医療の勉強を始めていた。
それ程、エミリは本気だった。そう簡単に辞めてしまうような夢では無かった、ということだろう。
「そのお陰か、もしかしたら今、こうして兵団の大きな力になれるかもしれねぇ。そんな所まで来てる」
フィデリオは何となく察していた。エミリが兵士という道を進む中、この調査兵団で彼女がどんな役割を持っているのか。
それを感じ取れるのはきっと、フィデリオがエミリの幼馴染だからだろう。
「……そうなんだ」
「おう」
フィデリオの話を聞いてペトラが思うこと。
(やっぱりエミリはすごい)
そうとしか思えなかった。
ペトラは知っている。エミリがいつも、『自分にしか出来ないこと』を見つけるために頑張っている姿を。
巨人と戦う力が、技術が他と比べて劣っていると悩み嘆きながらも、いつか出来ると信じて自主鍛錬に励む姿を。
それは、ペトラが調査兵団でエミリと出会ってから、一番多く見てきた彼女の姿だ。
そんなエミリのひたむきな姿勢を見ていたからだろうか、薬を作る彼女の姿を見ながら思う。
(ねぇ、エミリ。エミリはもっと、自分に自信を持っていいんだよ?)
声に出している訳では無いため、エミリには届いていない。けれど、いつかそれに気づいてくれたらと願う。
「……頑張れ、エミリ」
作業に集中しているエミリに、そのペトラの言葉は聞こえていない。
でもペトラはそれでも良かった。何故なら、この声が届いていなくても、エミリなら感じ取ってくれていると思っているから。
ペトラは作業が終わるまでずっと、大切な親友を自身の瞳に映し見守っていた。