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Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人

第12章 役割




「エミリ!! ティーポットあったぞ!!」


民家の食器棚からポットを見つけたフィデリオは、水でそれを洗ってエミリがいる場所へ戻って来る。すると、彼の言葉に反応したペトラが、口に人差し指を当て静かにと小声で注意する。


「どうしたんだよ?」


そんなペトラの動作にフィデリオは首を傾げる。すると、ペトラの隣に立っていたオルオが『見てみろ』と顎でクイッとエミリを見るように促す。
オルオに言われた通り幼馴染へ視線を移すと、そこには真剣な表情で作業に集中するエミリの姿があった。


「……エミリ」

「フィデリオがティーポットを探しに行ってから、ずっとこの調子だ。手も止めずに作業に取り掛かってる」

「すごい集中力ね……」


汗を光らせながら、ひたすら手を動かすエミリ。そんな彼女を見ていると、フィデリオは何だか懐かしい気持ちになった。

ファウストが切っ掛けで、薬剤師を目指すと言ったエミリはその日から毎日毎日、薬学の勉強に明け暮れていた。
それはもう、見ている方が心配になるほどに。

あの頃と今のエミリの姿が重なって見える。


「……こいつ、昔からそうなんだ」

「え?」


ポツリと呟くように話し出すフィデリオ。そんな彼の言葉に、ペトラとオルオは耳を傾ける。


「エミリ、ガキの頃は薬剤師になることが夢だったんだ。父親のイェーガー先生の影響も大きかったけど、一番の理由はファウスト兄ちゃんのためだった。
兄ちゃんに、薬剤師になるって宣言してから家にこもって勉強ばっか。出てきたと思えばフィールドワークとか言って……」


しかし、その夢は呆気なく途絶えた。ファウストがいなくなって、薬剤師になるという夢は意味を成さなくなったからだ。


「それなのに、毎日ってわけじゃないけど、薬学の勉強は辞めなかった。やっぱそれは、先生が居たからなんだろうな」


夢を諦めても、グリシャの診療には付き添っていた。きっと、エミリの中にまだ、"何か"が残っていたのだろう。薬学の世界から疎遠にならなかった理由は、きっとそこにあるのだろう。

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