Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第3章 入団
超大型巨人と鎧の巨人によって壁が破壊され、壁内の者達は巨人の脅威に曝された。それは、訓練兵達も同じだ。巨人に立ち向かおうと訓練地に残る者もいれば、恐怖に負け兵士を辞めて生産者へ戻る者も少なくは無かった。
その為にもう一度通過儀礼が行われた。育成者も戦う意志の無い者をわざわざ鍛えるつもりは無い。
その際、通過儀礼を担当したのが前団長であるキースだった。
「貴様は何者だ!」
「シガンシナ区出身、エミリ・イェーガーです!」
声を張り上げるキースに、エミリは敬礼をする。負けじと大きな声で、出身地と名前を言った。
「何しにここに来た!」
「私は……」
そこで思い出すのは、カルラが巨人に食われた光景とエレン達が涙を流す姿だった。
初めは『巨人を倒すため、人類の勝利のため』と答えるつもりだった。なのに、出てきた言葉は自分が思っていたものと違っていた。
「……私は、自分が何をしたいのか、そして、自分が出来ることを見つけるためにここに居ます!」
「!!」
その言葉にキースや隣に立っていたフィデリオ、周りの同期達も驚いた顔をしていた。エミリ自身もよく分かっていなかった。何故、自分がこんなことを言ったのか。
間違いなく怒鳴られる。そう思ったエミリだったが、キースは『そうか』とだけ言って隣の兵士の前に立った。
あの時、何故キースは何も言わなかったのだろう。彼の真意は今でもよく分かっていない。自分の言ったこともよく分からないままでいた。
「姉さん?」
「っ! 何?」
「何?じゃねーだろ。『通過儀礼の時何て答えたのか』って話だよ」
完全に自分の世界に入り込んでいたために、すっかりその質問をされたことを忘れていた。
「ごめんごめん。ぼーっとしてた」
「そんなんで大丈夫なのかよ。明日、配属兵科が決まるんだろ?」
「エレンよりはしっかりしてるから大丈夫よ」
「は? 何だよそれ!!」
「確かに」
「おい! ミカサ!」
「あはは」
こんな風に、ずっと四人で笑い合える日々が続けば良かったのに。今更だが、そんなことを思ってしまう。
この笑顔を守りたい。三人を見つめながら思った。
(……笑顔?)
そこで何かを忘れている気がしたが、その謎は解けないまま、エミリは次の日を迎えた。