Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「──そうだ、鎮痛作用……!」
幼い頃にグリシャと薬草の採取に行った時のことを思い出す。
(……もしかしたら)
今も唸り続ける兵士を見る。
ヨロイグサの根であるビャクシを使えば、もしかしたら鎮痛剤を作ることが出来るかもしれない。
けれど、他にも薬草がいる。そして、製薬道具だって必要だ。
道具は民家の中にあるものから使えるようなものを調達するとして、他の薬草はどうする。
(そういえば、ここって……)
今は巨人の侵略によって街の様子は変わり果ててしまったため、すぐに見分けがつかないが見覚えがある。
(何処だったっけ……?)
キョロキョロと辺りを見回し、頭の中から記憶を引っ張り出す。
焦らず、一ずつゆっくりと当時へ遡らせる。
そして、エミリは見つけた。この民家が並ぶ道を抜けた少し先に、小さな森の入口を……
(そうか! ここは……!)
あの森は、昔グリシャと薬草を採りによく通っていた森だ。それだけでなく、エレンやフィデリオ達とも遊び場にしていた場所。
とても懐かしい。
そして、あの森にならあるかもしれない。鎮痛剤を作るための材料が。
だけど、それだけじゃない。薬草や道具が揃っても薬を作る方に問題がある。
それは、エミリ自身がド素人だということ。知識は人並みにある程度で決して豊富とは言い難い。そして技術はそれ以下だ。
そんなエミリが薬を作り、激痛に苛まれている人間にそれを摂取させるなど、これはもう一か八かの賭けだ。
(それでも、私は……)
このまま黙って彼が苦しみ続ける姿を見ているくらいなら、置いて行くことになってしまうなら、賭けでも動くしかない。何もしないよりは絶対にマシだ。
やるしかない。
エミリの瞳には強い決意が表れていた。