Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「へ、ちょ……おねが、い……しま…………」
「…………」
リヴァイは何も言わない。いや、言えない。
"もし"でも助かるかもしれない命をそうホイホイ置いていける程、一人の命というものは軽いものではない。
それでも彼が望むのであれば、そうするべきなのだろうか。何より、兵団の……人類のために……。
「……兵長」
声を発しようとしないリヴァイ。エミリは何だか、無性にリヴァイのことが気になって仕方が無かった。
リヴァイはどんな思いで彼の言葉を聞いているのだろう。
どんな思いでその手を握り締めているのだろう。
消えそうな命を前に、どんな思いを抱えているのだろう。
自分の部下の死。
悲しくないわけが無い。彼がこのまま深い眠りについたとしても、リヴァイは決してその感情を表情に出したりはしないだろう。
気持ちを押し込めることが、どれだけ辛いことか。エミリも理解はしているつもりだ。だから──
(私には、何が出来る……?)
どうすれば激痛に苦しみ続ける彼を助けられる?
どうすればリヴァイの心を救ってやれる?
固く閉じていた瞼をそっと開ける。
ユラリ……
「!」
そこで視界の端に映った"何か"。
エミリはゆっくりとそちらへ顔を向ける。
そして、大きく目を見開いた。
「あれは……」
木の側で、小さな小さな白い花の塊を幾つもつけた植物。雑草ではない。丈夫な茎がとても逞しく見え、存在を主張している。
見たことがある。
小さい頃、グリシャと何度も薬草を採りに森へ来ていた時、あの植物も沢山採取した。その薬草の名は──
「…………ヨロイ、グサ……」