Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「なにか……薬は無いんですか!?」
痛みが引かないというのであれば、鎮痛剤を飲めば少しは楽になるかもしれない。険しい表情を見せるグンタにエミリも必死になって詰め寄る。
「……無いんだ」
しかし、答えたのはグンタではなく、その隣に立ち同じように表情を歪めているエルドだった。
「え……無いって……」
「薬が、無いんだ。薬を詰めていた荷馬車班が、どれも巨人にやられた……」
「……一つも、無いんですか?」
「……っああ」
苦しげに目を閉じるエルド。エミリはもう一度、横たわる兵士へ視線を移す。
「うっ……あぁ…………」
シーツを強く握り、苦しそうに唸っている。そして、その隣でリヴァイは、ただ静かに彼の様子を見守っていた。
このままでは、痛みに耐えきれずに命を失ってしまうこともある。彼は精鋭班の兵士だ。調査兵団にとっても、人類にとっても大きな損失となるだろう。
(薬……鎮痛剤さえ、あれば……)
でも、それすらも無い。
なんて、ついていないのだろう。
どうしてこんなにも、この世界は残酷なのだろう。
「リヴァ、イ……へ、ちょう……」
痛みに耐えながら、彼は隣についているリヴァイに、言葉を途切れさせながらも必死で声をかける。
「何だ?」
「……この、まま…………おれを……おいて、いって……くだ、さい…………」
彼のその言葉に、エミリは胸が締め付けるような感覚を覚えた。
命があっても、このままでは兵団の足でまといになってしまう。そう考えたのだろう。
もう彼は、自分が助かるなんてことを思っていない。いや、もしかしたら、このまま痛みに耐え続け壁へ帰還し、そのまま病院へ行けばなんとかなるかもしれない。
だが、それはいつ? エルヴィンからはまだ次の指示が出ていない。このまま第二補給所の確保を続けると言うのであれば、壁内へ帰ることができるのは明日の夕方頃だろう。
その間、回復の兆しが見えない負傷者を背負って進むくらいなら、ここに置いて行かれた方がマシだ。それが、彼の言いたいことなのだろう。