Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
窓の外から聞こえる小鳥の囀りに、エミリはゆっくりと重たい瞼を上げる。数回、瞬きをしてからむくりと状態を起こした。
「…………夢、か……」
とても幸せな夢だった。
これは、エミリが小さい頃にあった些細な出来事。いや、今となっては、些細なんかでは済ませられないこの記憶は大切な宝物だ。
優しい両親と愛しい弟に囲まれた幼少の自分は、とても幸せそうだった。
今も勿論、幸せだ。
素敵な仲間に出会うことができたのだから。けれど、今と昔の幸せは、言葉にすれば同じようなものに聞こえるが、全く形の違うもの。
「……エミリ、おはよう」
物思いに耽っていると、エミリの前のベッドで眠っていたペトラが櫛で髪を解いていた。
「おはよ、ペトラ」
いつもならそう言って笑いかけるが、それが出来ない。理由は簡単。今日は壁外調査の日だからだ。
やはり朝から憂鬱だった。他の同期達も目を覚まし支度を整えているが、部屋を包み込む空気はとても重たいものだった。
「エミリ、大丈夫……?」
「……うん」
ぼーっとしたままのエミリに、ペトラが心配そうに顔を覗き込む。
今回は、エミリが兵団に復帰してから初めての調査だ。
一ヶ月、ペトラに付き添ってもらい鍛錬を続けた結果、以前のように訓練について行けるようにはなった。しかし、それだけではいけない。壁外から無事に帰還することが出来て、初めてブランクを乗り越えたということになるのだろう。
「……正直、ちょっと不安かも。だけど……」
まだ、"自分にしか出来ないこと"を見つけていない。このまま死ぬわけにはいかない。
例え技術が劣っていても、遅れをとっていても、立ち止まっている暇はエミリにはない。
そして何より、エレン達を置いて逝くわけにはいかない。
「絶対、生きて帰ってくる。何がなんでも、絶対に……!」
「うん!! 一緒に生きて帰ろう! そしたら、また二人でお出かけしよう!!」
ペトラと手を取り合いギュッ握る。
誓いを立て、お互いの無事を祈るかのように……強く、優しく──