Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第12章 役割
「まだエミリには分からないかもしれないな」
「父さんって難しいおしごとしてるんだね……」
本の中を覗いて見ても、何が書いてあるのかさっぱり分からない。段々文字を追うのも面倒になってくる程だ。
「ふふ、エミリ。父さんはね、とってもすごいお医者さんなのよ」
そこに、料理する手を動かしながら二人の話を聞いていたカルラが会話に参加する。
「まだエミリが生まれる少し前に病気が流行ってね、その病気にかかった人達は助からないんじゃないかって言われてたの」
「……ねぇ、もしかして母さんもその病気にかかったりしたの?」
「そうよ。でもね、誰も作れなかったその病気の薬を父さんが作って、みんな助かったの」
カルラのその話を聞いたエミリは、目を丸くする。そんな彼女の瞳はキラキラと輝いていた。そこには、グリシャに対する尊敬の念が込められている。
「へぇぇ!! 父さんすごいね!!」
もし、グリシャがいなかったら、その薬を開発していなかったら、謎の流行病を患ったカルラは生きていなかったかもしれない。
エミリもエレンも、生まれてこなかったかもしれない。
幼いエミリでも、それを十分に理解した。
「あ! もしかして、母さんは父さんに助けてもらって、父さんのこと好きなったの??」
「もう、エミリったら……!」
遠慮のないエミリの言葉に、カルラは少しだけ恥ずかしそうに頬を染めて笑う。わざわざカルラの口から答えられなくても、表情を見れば十分だった。
カルラにとってグリシャは、愛する人であるだけでなく命の恩人でもあるのだろう。
エミリは何だか嬉しくなった。
「お医者さんかぁ……わたしにもなれると思う?」
「あら、エミリも父さんと一緒でお医者さんになりたいの?」
「う〜ん……まだわかんない」
だけど、興味はあった。
大好きな植物から薬ができる。新しい発見に胸のドキドキは今も収まらない。
美しく綺麗に咲く花が、強く大きく大地で育つ草や木が、人々の命を救う。
なんて素晴らしいことなのだろう。
自分もそんな世界に触れてみたいと思った。
それが平和な日常の中で見つけた、エミリの小さな小さな夢のカケラ。