Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第11章 夢
エミリの過去の話は、ペトラも本人から部屋で聞いていた。だから、ファウストがエミリにとってどんな存在であったのかも理解しているつもりだ。
「全然行けてなかったし、近況報告も兼ねて行ってこようと思って」
「そうか……一人で大丈夫か?」
「うん」
吹っ切れたとは言え、エーベルのこともあり少し心配だったが、エミリが一人で行くというのであれば、それ以上関わる必要はないだろう。
「フィデリオ」
「ん?」
「……えっと、ありがとう、ね。心配してくれて……」
いつもフィデリオに対して憎まれ口しか叩かないエミリが、恥ずかしげに頬をほんのりと染めて礼を言っている。
そんなエミリが珍しくて、一瞬面食らった顔をしたフィデリオは、周りに気づかれないように小さくふっと微笑む。
「ったく、いつもそんな風に素直だったら、暴力女なんて言われたりしないのになァ?」
「あんたねぇ!! 人が素直に感謝してるのになんなのよ!!」
「まあまあ……」
ありがとうなんて言うんじゃなかった! とパンを齧るエミリを隣に座るペトラが宥める。
そんな二人を目に映しながら、相変わらず子供だと自分自身に呆れるフィデリオだが、これが俺達の関係かと開き直る。
きっとエミリとフィデリオのこの関係は、ずっと変わらないだろう。命を落とす直前まで、ずっと……
「けっ、お前もエミリに対しては相変わらずだな。他の女には優しいくせに」
「俺は紳士だからな」
「どこがだよ」
ズレた発言をするフィデリオにオルオが呆れた表情を見せる。
「そう言うお前こそ、さっさと告白したらどうだ?」
「は、はぁ!? 誰にだよ!!」
「わざわざ言わなきゃ分からないか?」
ニヤリと口角を上げるフィデリオの言葉にオルオは声を上げる。勿論、それに反応するのはまだ何も気づいていないペトラ。
「あら、何? オルオってば好きな子でもいるの? へ〜」
「ち、違ぇよ!! これはだなァ!!」
「はぁ……さっさとくっつけばいいのに。ねぇ?」
「だよなぁ〜」
「お、お前らなぁ……」
さっきまで言い合ってたのは何だったんだ、とツッコミたくなるほど息がピッタリな二人に、オルオはわなわなと拳を震わせたのだった。