Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第11章 夢
訓練を終えたエミリとペトラは、軽く風呂で汗を流してから食堂へ向かった。そこには既に、フィデリオとオルオが昼食を食べていた。
パンとスープ、スクランブルエッグとサラダが乗せられた皿をトレーに移して男二人の前へ腰掛けた。
「……よお、訓練はもういいのか」
「うん。ていうか、何でそんな不貞腐れた顔してるのよ」
いつもよりも少し低い声で顔を歪ませるフィデリオと、同じくその隣で不貞腐れた顔をしているオルオに、エミリは冷ややかな視線を送る。
「別に不貞腐れてねぇよ」
「どこがよ」
放って行った事を根に持っているのだろうか。でも、別にそれはいつもの事だから気にしない。暫くそのままにしておけばこの単純コンビは夕食時には元通りに戻っているだろう。
「エミリ、午後も訓練する?」
「あ、午後はちょっと……どうしても行きたい所があるんだ」
「行きたい所?」
繰り返すペトラにコクリと頷く。
ここ数年、ずっと行けていなかった場所。退院をしたら、必ず行こうと決めていた。
いつ死ぬか分からない、生きている今の内に。
「へっ、ただでさえ遅れてるってのに余裕だな!」
「オルオうるさい! 黙ってて!!」
またもや上から目線のオルオをペトラが黙らせる。話が進まないからだ。
「で、どこ行くんだ?」
ペトラに怒られしょぼくれているオルオの肩に手を置きながらフィデリオが目的地を問う。
「それは……」
「…………ま、言いたくないなら別に無理して言う必要はねぇけどよ」
歯切れの悪いエミリの様子から何かを察したフィデリオが、気を使うもエミリは小さく首を振った。
「その、大した事じゃない、から…………あの、ファウスト兄さんの所に行こうと思って」
「ああ、そゆこと……」
「え、どういうこと?」
エミリの言葉が理解できないペトラが説明を要求する。オルオも意味が分からないという風に眉を寄せていた。
「……墓だよ。兄ちゃんが眠っている」
「ああ、成程」
死んだ人の所へ行く、なんてエミリが言うものだから、一瞬冷や冷やしたペトラだが、フィデリオの簡単な説明に納得した表情を見せた。