Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第11章 夢
「ペトラ、私……なにかした?」
「え、エミリ……自分で気づいてないの?」
「へ?」
今度はペトラが目を丸くする。ますます訳がわからなくて、エミリの首はどんどん傾いて行く。
「何の話?」
「手当のことよ」
「……手当?」
その単語から思い浮かぶのは、調査中や壁へ帰還してからのこと。
壁外へ出れば、いつどんな場所で死を迎えるか分からない。勿論、怪我だって軽傷な者もいれば重症を負う者だっているのだ。
「手当がどうかしたの?」
「本当に気付いてないんだ。壁外で手当をする時、いつもエミリが仕切ってくれるでしょ」
「……うん、まあ」
父・グリシャが医者であったため、医療に関する知識は自身の身の回りにいる者達と比べて豊富な方だ。手当の仕方も様々で、そういった知識も方法も、グリシャが仕事をしていた姿を見てきたから知っていた。
「手当の処置だって早くて的確で、エミリが指示を出しくれるから、私達も自分の出来ることやすべき事がわかって助かってるの」
団長であるエルヴィンを始めとした幹部の人間は、打ち合わせで忙しい。他の上官達も見張りに専念しているため、手当は殆ど下っ端の兵士達が担っている。
手当に関しては、訓練兵団の座学に取り入れられているが、それはあくまで応急処置程度のものだ。
「やっぱり、医療の知識を持っている人がいるのといないのとでは全然違う。前回の壁外調査で実感したの」
新しく調査兵団に入った新兵を交えた前回の壁外調査では、怪我のためエミリは参加していない。
ペトラの話によると、一日目の夜の時点で死亡者はいないものの、負傷者が多く手当に時間がかかり休む時間はあまり無かった、とのことだった。
「私達、いつもエミリに任せっきりだったんだなあって、思い知った。きっとエミリがいたら、もっと効率良く手当も出来ていたのかな」
「………ペトラ」
自分自身に呆れているのか、ペトラは苦笑を零し肩をすくめる。
エミリは、膝の上に重ねて乗せている自身の手へと視線を移しぼんやりと考える。