Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「エレン、たまには休憩したっていいのよ?」
「え」
エミリから発せられた言葉は、エレンの予想していたものとは違っていて戸惑う。姉の言いたいことが分からなくて、少し頭を傾ける。
そんな弟の様子にふふ、と笑みを零し続けた。
「エレンは加減を知らないから、きっと頑張り過ぎてこんがらがっちゃうんじゃないかな」
「…………」
「それは良いことよ。努力するっていうのは、自分の力を理解できているってことだからね。でも……」
ふわり、とエレンの髪が揺れる。
「そんなエレンだからこそ、『頑張らない』ってことを覚えるべきだわ」
「……『頑張らない』?」
ますます意味が分からない。エレンは眉を寄せて考え込む。
そうやって、何でも真面目に考えては答えを見つけようとする弟の姿が微笑ましい。
「そう。自分のペースでいいの。周りに合わせなくたっていい。エレンはエレンのペースで、強くなって行けばいいの」
ね? と微笑むエミリの言葉に、エレンはハッとしたように目を丸くした。
「無力だからって、自分を……追い込まないで」
頭を撫でていた手が後頭部へ回され、優しく引き寄せられる。
「今できなくたっていいじゃない。卒業する頃には、きっと10番内に入るくらい、強くなってるよ」
「……姉、さん」
エミリが言葉を重ねる度、エレンの心の重しが取り除かれていく。
脳裏に浮かぶのは、日々の訓練と同期達。
皆と同じ時期に訓練兵団へ入団し、どんどん開いていく距離に何度悔し涙を流しただろう。
ミカサやアルミン、そしてジャン……自分の弱い部分を見せたくなくて、いつも一人で悩んでいた。
どうすれば強くなれるのか。
どうすれば皆に追いつけるのか。
いつしか焦りばかりがエレンを追い詰めていた。
「焦らなくていいんだよ。時間はまだたっぷりあるんだから、立ち止まったっていい、泣いたりしたっていい……大切なのは、そのままでいないこと。また前を向いて行くことだよ」