Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
『このゼリーおいひい』
『……お前、それで何皿目だ』
何とか式までに手当も着替えも間に合い、とりあえずは一段落と言った所だ。
エーベルと話をした後食べ物に食いついたエミリは既に、ローフトビーフを6切れとスープを5杯、グラタンを3皿、パンを7つ、ケーキを4つ平らげている。とんでもない胃袋だ。
『えへへ、美味しいからつい食べちゃうんです』
『食い過ぎだ馬鹿』
幸せそうにゼリーを口に運びながら、エミリの視線はエルヴィンやハンジと話をしているシュテフィへ注がれる。
さっきからこれの繰り返しだ。二人の間に会話が無ければ、エミリはずっとシュテフィを目で追っている。その理由はリヴァイでも判った。
『さっきからあの女ばかり見ているな』
『……わかり、ますか?』
『気づかねぇ方が可笑しい』
リヴァイの返答に、エミリは眉を下げて苦笑する。それはまるで、自分を嘲笑っているかのようだ。
『その……やっぱり、いいなぁって思っちゃうんです。結婚って……』
結婚式は"女の夢"だ。お姫様の様な美しいドレスを着て、愛する人と永遠の誓いをする。それはきっと、幸福で溢れたステキなもの。
『お前も……したいと思うのか』
『そりゃあ、女ですから……けど、それは夢のまた夢です』
寂しそうに空を仰ぐエミリ。そんな彼女が少し、儚く見える。
『……だけど、兵長、言ってくれましたよね。また誰かを好きになれる、私を大切に想う人も見つかるって…』
『ああ』
『だったら、それだけで良いです』
『は?』
エミリの言葉の意味が解らない。
それだけで良い、とはどういうことだ。
『これ以上何かを望むのは、我儘かなって』
きっと彼女の言葉は、これまで壁の外で命を落とした兵士たちのことを指している。命懸けで生きてきた彼らを放って、自分だけ結婚などという幸せを感じて良いはずないと。
『自分を好きでいてくれる、そんな人が隣に居るだけで……大分贅沢してますよ』
自分じゃない"誰か"が、自分を大切に思ってくれる。それは恋人だけに限らず、家族だったり友達だったりと様々な形で存在する。けれど、当たり前の様で実は、それはとても"凄いこと"なのだ。
だから、その「愛」だけでエミリは十分だと思った。