Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
エミリが抱えていたものは、リヴァイが想像していた以上のものだった。
幼馴染として、異性として想いを寄せていたファウストの死。10歳という幼いエミリには、受け入れ難い現実であっただろう。
リヴァイは数年前まで地下街で暮らしていたため、彼もかなり過酷な人生を送ってきたが、エミリが受けたのは彼とはまた違う苦しみや悲しみ。これが「愛」によって生まれた苦しみと言うものなのだろうか。
けれど、何も無い……「無」の世界で生きてきたリヴァイには解らない感覚だった。
だけど、拠り所としていた大切な人が居なくなった時の苦しみや悲しみはリヴァイにも解る。
気づけば泣きじゃくるエミリを抱き締め、優しい言葉を掛けていた。本当にらしくないと思う。
けれど、どうしてかエミリに惹き付けられる。彼女には、不思議な魅力があった。それが、リヴァイの心を動かしている。
『……へい、ちょう』
温かい腕の中、弱々しくリヴァイを呼びかけるエミリの声は震えていた。そんな彼女を抱き締める腕を少し強める。
エミリは不安がっていた。また誰かを好きになれるか……。
既に二度も失恋を経験し、今は調査兵として人類に心臓を捧げる身。
兵士として生きる内に、また誰かに恋をするかもしれない。でも、それは叶うことの方が難しいだろう。そんな辛い思いをするなら、恋をしない方が幸せかも知れない。
でも、リヴァイはまたエミリに誰かを好きになってほしい、そして、その誰かと幸せになってほしいと思った。
『ああ、なれる……そして、お前を一番、大切に想うやつも見つかる。だから、そいつが言ったように、諦めるな』
本当に自分のものかと疑う程、優しい声に戸惑う。こうして抱き締めたり、寄り添ってやりたいと思うのも、それは、リヴァイの中でエミリという一人の少女の存在が大きくなっているから。
守ってやりたいと思える程に。