Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
ショーウィンドウの向こうに飾られている、フォンダンでコーティングされたバウムクーヘンは、ケーキ同様、高級菓子とされているため簡単に食べられるものではない。
エミリがホフマン家と交流があることから、既にバウムクーヘンを食べたことはあるかもしれないが、何となくこれがいい、と思った。
店内へ入ると甘いケーキの香りがふんわりと漂ってくる。リヴァイは甘い物をあまり好まない。だから菓子屋なんて滅多に行かない。でも、この匂いは嫌いではなかった。
バウムクーヘンを購入し足早に宿へ戻ったリヴァイは、エミリが入浴中であることをハンジから聞き浴室の前で待っていた。
『……らしくねぇな』
誰もいない廊下でボソリと呟く。
たった一人の女子供にどうしてここまでするのか……正直、よく解らなかった。
ただ、リヴァイの脳裏には、悲しみを押し込むエミリの顔がチラついていた。
『兵長……!』
ガチャリと扉が開く音と共に聞こえたエミリの声。慌てて首に掛けてあるタオルを取り、拳を左胸に当てた。
そんな彼女の表情は、酷く窶れた顔をしていた。風呂に入りながら泣いたのだろうか。目元も少し赤い。
エミリに付き合うよう声を掛け、足を動かす。慌ててリヴァイを追いかけるエミリにチラリと目をやり、庭園へ向かった。
噴水の縁に腰掛け、さっき買ったバウムクーヘンを渡せばそれを見たエミリは慌てるも、最終的には美味しい、と言って全て平らげた。
バウムクーヘンを食べている時の彼女の顔には、少しだけだが嬉しそうな笑顔があった。それを見て思う。買って良かった、と。
それからリヴァイは、エミリの話をただ聞いていた。それで少しでも彼女の気が紛れるのなら、またあの笑顔が見られるならと、彼女が落ち着くまでそばにいた。