Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「……あいつと居ると、予想外なことばかりだ」
リノの頭を優しく撫でながら、唐突にリヴァイが話を始める。このタイミングでその言葉、まるでハンジの考えていることを察したかのようだ。
「初めてあいつと会話をした時は……あまり気にも留めていなかった」
けれど、少しだけ興味はあった。
それは勿論、エミリはリノが初めて心を許した人間だから。それでもその頃は、ただの落ち着きの無い騒がしいガキだと思っていた。
なのに、気づけばエミリという人間に惹かれていた。
その決定的な出来事は、彼女が調査兵団へ入って初めての壁外調査を終えた、あの夜のこと。
母親の教えを胸に、前を向いて行こうとする姿が印象的だった。
普段はただ元気なだけの少女だが、自分が持つ信念……それを真っ直ぐに見つめ続ける彼女の表情はとても大人びて見えた。
エーベルのことだってそうだ。
自分もエーベルのことを想っているにも関わらず、彼の幸せとシュテフィの気持ちを優先した。
二人が仲睦まじく抱き締め合っている姿を見るエミリの表情は、見ているこちらが苦しくなるようなものだった。彼と再会できると嬉しそうにしていたエミリの恋する姿を見ていたから尚更。
そこで気づいたことがある。
『あいつの笑顔は……嫌いじゃない』
あの眩しいエミリの笑顔は、見ているだけで心が温まる。けれど、失恋したエミリの顔には、当たり前のことだがそんな笑顔は無かった。
無理矢理作って見せる"ニセの笑顔"。
見て居られなくて、何とかして彼女の心の重しを取り除いてやりたいと思った。
夜ご飯も食欲が無かったのだろうが、心配を掛けたくないがために出された食事は残さず全部食べていた。でも、腹は満たされていないだろう。
『ったく、気ぃ遣いやがって……』
食事を終え部屋へ戻るエミリの背中は、とても寂しそうに見えた。いても立ってもいられず、リヴァイは席を立つと財布を持って王都の街へ出た。
後で『お腹空いた』と言われても困る……というのは口実で、少しでも気分転換になる珍しいお菓子は無いか、煌びやかな街を歩き回って見つけたのが、あのバウムクーヘンだった。