Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
リノはリヴァイに触れられても嫌がることはなく、逆に彼の手に擦り寄っていた。その光景にハンジは驚く。
元々リヴァイはリノのことを気にかけていたし、リノも薄々エミリとリヴァイの距離間には勘づいていただろう。
でも、こうしてリヴァイがリノに声をかけたり触れたりするのもこれが初めてなはずなのだ。なのにリノは拒まない。
「……リヴァイ、リノに何かした?」
「何かって何だ? 俺がこいつに触れるのはこれが初めてだ」
「そ、そう……」
ということは、リノはリヴァイに心を開いている、という事で良いのだろうか。
ハンジが初めて触れようとした時、リノは頭を引っ込めてはじっとハンジを見ていた。それはきっと、ハンジのことを警戒していたから。最近になってようやく触らせてくれるようになった。
(もしかして……!)
リヴァイとリノを観察しながら、ハンジはある事を思い出す。
エミリはよく、訓練の休憩時間や馬小屋でリノに色々な話を聞かせていた。家族や弟のこと、友人のこと、今日あった出来事など……そうやって、リノと心を通わせるために。
エミリは、ホフマン家やエーベルとの一件についてもリノに話をしていた。もしかしたら、リヴァイに慰めてもらったり助けてもらったりした出来事も話していたのかもしれない。
リノもエミリを通してリヴァイの人柄を感じ取ったのだろう。だから、彼には心を開いた。
(参ったなぁ……エミリったら本当に、兵団で何かしでかしそうだ)
エルヴィンのように、並外れた頭脳を持っている訳でも無い。
リヴァイのように、圧倒的大きな身体能力を秘めている訳でも無い。
それなのに、人間も動物も彼女に心を許し、また惹き付けられる。
忙しない彼女は、明るく元気な笑顔を浮かべて、グイグイと誰かを引っ張っては、そのままその誰かを連れて行ってしまうのだろう。