Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
早朝より壁の外へ調査に出ていた調査兵団は、古城で休息をとっていた。
102期の新兵を混じえた今回の壁外調査は、第二拠点まで補給物資を運ぶことが目的となっている。
そこまで辿り着くまでの距離は、遠い。既に何十体もの巨人と戦闘となり、新兵は勿論のこと、熟練の兵士達も心身共に疲弊していた。
現在は第一と第二拠点の丁度中間地点にいる。
本来の予定であれば、第二拠点で野営する筈だった。予定していたよりも、大幅にズレが生じている。このままでは非常に不味い。
出発時刻は、明日の朝六時前後。夕方までには壁内へ帰還しなければならないが、恐らく予定通りには行かないだろう。しかし、だからと言ってこれ以上遅れる訳にはいかない。夕刻までに間に合うよう、進路を見直す必要がある。
「──では、第二拠点までの経路はこれで問題は無いな?」
「ああ」
兵士達が休んでいる間、リヴァイはエルヴィンと共に明日の陣形の動きについて打ち合わせをしていた。
日が沈むまでに壁へ帰還するには、平原を通って拠点へ向かう必要がある。そっちの方が近道だからだ。
しかし、逆にそれは立体機動を活かすには苦しい環境であり、恐らく多くの犠牲が出るだろう。それでも進むしかない。苦肉の決断だった。
打ち合わせを終えエルヴィンと別れたリヴァイは、灯りも持たずに城の外へ出る。
夜独特の冷たく静かな風が頬を撫で、体温を少しずつ奪っていく。
月明かりを頼りにリヴァイが向かう場所は、エミリの愛馬であるリノの元。
エミリが不在のため、今回リノは荷馬車を担当していた。最初は兵士達の指示を聞くかどうか不安はあったが、それは杞憂に終わった。
今までエミリ以外の人間に懐かなかったあのリノが、大人しく言うことを聞いていたからだ。この変化もおそらくは、エミリの影響だろう。
それだけでは無い、最近は分隊長のハンジを初めとしたハンジ班の兵士達にも、少しずつだが心を開いていくような兆しが見える。
これは、リノにとって大きな成長だった。