Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
「…………二ヶ月前、エーベルの結婚式に出席したの」
「……え」
予想外の話の内容にエレンは衝撃を受けた。そして、エミリが何故ドレスを着ていたのか、その理由も分かった。
エーベルとなら、エミリ程ではないがグリシャに連れられ数回ほど会ったことがある。
だから知っていた。エミリがエーベルに、密かに想いを寄せていたことを……。
「シュテフィさんっていう、とっても綺麗で素敵なひとが婚約者でね……お互いのこと、大切に想い合っていた」
新婚の二人は、きっと今も幸せな日常を送っていることだろう。
「ただ、結婚式の当日に……ちょっとしたハプニングがあって」
それからエミリはベーゼ家との一件を話した。
その御曹司がシュテフィに婚約を申し込んでいたこと、断られて式を妨げようとしていたこと、そして……エーベルがシュテフィに贈った婚約指輪を橋の下に落としたこと……。
「それで、頭にきた私は、それを取りに行くために橋から飛び降りたというわけ」
そこまで話しを聞いて、エレンは大きく溜息を吐いた。けれど、そこに呆れは含まれていない。
やった事は確かに馬鹿だが、そうやって誰かのために己を顧みない姉に、エレンは幼い頃から密かに憧れていたから。
「……別に飛び降りなくたって、下まで走って降りて行けば良いだろ」
「だって飛び降りた方が近道じゃない」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
「エレンだって、私と同じ立場だったら同じことをするでしょ?」
「…………」
的を射た問いにエレンは口を噤む。
そうじゃないと否定できないから。エミリの言った通り、きっと同じことをするだろう。
「エレン」
「なんっ……って、ちょ!」
突然、頭を引き寄せられエミリの右肩へ抱き寄せられたエレンは、驚きと気恥しさから声を上げる。けれど、エミリはそんなエレンにお構いなしで口を開いた。
「エレン、心配してくれて…ありがとう。私はとっくに、大丈夫だからね」
『ごめんね』ではなく『ありがとう』を使う。そういう所がエミリらしい。
エレンは大人しく抱き寄せられたままの状態で、ボソリと小さく返した。
「…………別に……」
そんなエレンの耳は、真っ赤に染まっていた。