Vergiss nicht zu lacheln―進撃の巨人
第10章 存在
店を出た二人は、そのまま街を散歩することにした。
何だかんだ、エミリは二ヶ月もベッドの上だ。この外出を機会に、散歩程度でもいいから体を動かしていないと、復帰した時体が訓練に着いて行かない。
市場や広場を回りながら、お互いの日常について談笑する。
こうしてのんびりと姉弟二人で過ごすのも本当に久し振りで、心が温かくなった。
「この辺で少し休憩しよっか」
「おう」
途中、行きつけのパン屋でおやつを買った二人は、その店の近くの公園へ足を運ぶ。
ベンチに座り、袋の中から渦巻き状のパン──ヌスシュネッケンを取り出した。
シナモンとバターの香りが鼻をくすぐり、食欲をそそる。
「「いただきます」」
パクリと口に含む。デニッシュ生地で作られたそれはサクサクとした歯ごたえがあって美味しい。
昔はよく、カルラがおやつにとヌスシュネッケンを作ってくれたことがあった。とても懐かしい。
だからヌスシュネッケンは、エミリの一番好きな食べ物であり、思い出のパンなのだ。
「美味しいね、ヌスシュネッケン」
「ああ」
カルラを失ってから、暫くこのパンを見るのが辛かった。パン屋で見かけると、家族との温かい思い出が頭をよぎって悲しくなったから。
でも、悲しい思い出のままにしたくなかった。だからもう一度手に取って食べてみると、やっぱり甘くて美味しくて、また大好きになった。
「……なあ、姉さん」
「ん?」
ヌスシュネッケンを食べ終えたエレンが、目の前の花壇の花たちを見ながら口を開く。
「そろそろ教えろよ。なんで……橋から飛び降りたのか……」
今回、エレンが訓練を休んでまで赴いた理由はエミリが原因だ。
何故、そのような危険を犯したのか……監視役として、そして家族として、エレンには知る権利がある。
「……参ったなぁ……あんまり情けない話はしたくないんだけどね」
何が悲しくて弟に自分の失恋話をしなくてはならないのだろう。それにエレンのことだ、きっと心配してくれる。
あんまり気を使わせたくないのが本音だが、もう既に迷惑を掛けているため、何を言っても説得力など無いだろう。
なによりエミリは、可愛い弟の"お願い"に弱い。